島貫洋子 / HIROKO SHIMANUKI
女川町出身。
おしゃれな婦人服の店ダイシン&かふぇさくら店主。

ひまわりのような人だと思った。 出会ったのは、1年半前。きぼうのかね商店街を歩いていたときだった。「ダイシン」の看板が目に入ってきて、思わず立ち止まった。なんで女川にダイシンが?小さいころから通っている地元の百貨店と、まったく同じ名前だった。

こんにちは、と挨拶してお店の中に入った。店の奥から、上品で美しい女性があらわれた。それが洋子さんだった。勝手な思い入れをお話したところ、笑って喜んでくれた。突然の訪問にもあたたかく迎えてもらえて、ホッとしたのを覚えている。初めて訪れた女川の人と交流するのは初めてで、ドキドキしていたのだ。

それ以降、女川に来る度に彼女の元を訪れた。挨拶だけの時もあったけれど、お洋服を見ながらおしゃべりをする、ダイシンならではのゆったりとした時間が、女川での楽しみのひとつになっていた。今年3月の復幸祭で駅前のテントで出店しているのを知り、会いに行った。その時の、おかえりなさーい、の大きな笑顔とハグは忘れない。いつまでも、あたかかった。

きぼうのかね商店街から駅前へ。

そんな洋子さんが、駅前商業エリアに出店すると聞いた。しばらくは、まだほとんど何も建っていない場所に現れたオアシスのようだった。洋品店にカフェを併設したスタイル。美味しいコーヒーと軽食でリラックスできる場所を、みんなが待っていた時だった。開店時には、たくさん届いたお祝いのお花が華やかに咲いていた。

ひとがいっぱい来るようになったらいいな、と洋子さんは笑った。駅前に移転してきてどんなお店にしたいですか、という問いに対しての答えだった。震災前は、婦人向けの洋品店だったダイシン。津波でご両親と店舗を同時に失った後、様々な方の応援を受けて、きぼうのかね商店街に2012年4月に出店。女川従来の「お茶を出してもてなしながらの商売」をしているうちに、カフェをやってみたいという気持ちが大きくなっていった。元々、洋子さんの心のなかにあった希望であり夢であった。

新しい交流も増えた。きぼうのかね商店街でオープンしてからは、男性物も扱うようになり、男性が来るようになった。ひょっこりと現れるのを、何度も見ている。楽しそうに会話をして、さらっと去っていくときもあれば、オシャレなシャツをオススメされたりして、その気になって買っていく。

駅前に来ると、今度は子どもが来るようになった。それまでは、子どもが気軽に一人で行けるお店が、震災後の女川には無かった。夏の間は、子どもたちの声で店内がかなり賑やかなことになったらしい。女川の新名物となったかき氷を目当てに、小銭を握りしめてやってくる。当然、大人たちも涼みにやってくるわけで、忙しくなると手伝ってくれたのは子どもたちだったの、と洋子さんはうれしそうにっこりした。だから、ちょっと今日はお金がこれしかない、と子どもが言ってきた時には、工夫をして食べさせてあげた。女川のお母さんの優しさだ。

ほっこり定番メニューがたくさん。かふぇさくら

カフェメニューは実にどれも愛情たっぷりで、いただくとほっこりする。女川名物の「女川カレー」が常時食べられる。トッピングは、朝取れの新鮮なほたて。まるごと一個、贅沢にのっかっている。具だくさんの豚汁をすすれば、ほっとする。デザートのあんみつも大人気。三つ組み合わせれば、かふぇさくらのフルコースのできあがり。

小腹が空いた時には、さんまそぼろトーストがオススメ。甘辛く煮たさんまそぼろに、とろけるチーズ、そして香ばしいトースト。噛むとじゅわっと広がる旨味。子どもたちが虜になるのも、頷ける。夏の忙しい時期は、お客さんに届けてくれたのは、子どもたちだった。あついのでおきをつけておめしあがりくださいー。口に運ぼうとすると、待ちきれず横から思わず、おいしいですか?そんな微笑ましい夏の時間が過ぎていった。

取材時には無かったが、11月からは「味噌スープ」が登場。洋子さんの娘さんたちが小学生だった頃、給食の人気メニューだったそうだ。女川の懐かしの味。味噌汁、ではなく、あくまでも、味噌スープ。もやし、玉ねぎ、にんじん、はくさいなどが入り、絶対に欠かせないのが、コーン。身体があたたまる、女川ソウルフードの復活だ。

実はグローバル。世界中から、人がやってくる。

お店をオープンしてからは、他県や海外からもお客様が来るようになった。
つい先日は、ドイツ語らしき言葉が聞こえると思ったら、スイスからのお客様だったとか。観光協会から借りたアルバムを見せながら、震災前や震災当時の話をしたという。きっとこれからも女川目指して来る外国人観光客も増えるのでは?そうね!英語も練習しなきゃ!と明るい洋子さん。

こんな交流も。今年も、もうそろそろ来るころかもと教えてくれたのが、きぼうのかねに居た数年前に、寒い時期にお店に入ってきたお客さんの話。イギリスから来た竪琴の奏者の方だった。たまたま立ち寄ったことがきっかけで、その次の年も洋子さんを思い出して、女川に遊びに来てくれた。

お店をやってるっておもしろい、おもしろい、ほんとに。とキラキラと笑いながら、いつもニコニコしている陽子さん。みんなこの笑顔に会いたくて、やってくる。

おながわ駅前商業エリア
0225-53-2335 (定休日はお問合せください。)

女川こぼればなし
topic 02: 伝説のピンクさん。 20年前の女川にいた人なら、誰でも知っていた名物の人。語尾の最後に、かならず「ピンク」とつける。「おはようピンク!」「こんにちはピンク!」と言った具合に。とうとう、自分の本名を伝えても誰だかわかってもらえず、自ら「ピンクです」と名乗るようになったらしい。近々二代目ピンクさんが誕生するとか、しないとか。勝手に襲名して女川をピンク色に染めてほしい。

2015.12.23 Text : YUKA ANNEN Photo : KEISUKE HIRAI