震災後にシングルシードの牡蠣の養殖を始めたんですね。
震災前は、ウニの養殖をしていました。牡蠣は、作りはじめて6-7年になります。きっかけは、震災から2年後くらい。生産性とクオリティの高い牡蠣をタスマニアまで見に行かないかと。仙台の牡蠣業者とオーストラリア領事館から声がかかりました。
既存の垂下の牡蠣の養殖は、とにかくシビアな世界だと思っていました。
だったら、やってないことをやって、違いを出そうと。上手くいけば、こういう新しいものの需要が来るかもしれない。うちが最初にやって、ある程度、ノウハウとか販売ラインとかを先行して。他の生産者の人たちがやりたいときに移れると思いました。
実際、ちょっと種を分けてやってみたいという人もいます。
自分たちも商売を軌道に乗せて、女川も盛り上げると。
震災でむき子がいなくなり、むき身を出荷できる量が下がりました。どうせ殻付きのカキを作るんだったら、クオリティを高めたい。殻付き流通に特化したものを作ろうと思ったのが始まり。
女川に牡蠣の種が流れて取れるが、誰も取ってなかったんですね。株を買ってくるほうが楽だということがあるとは思います。
でも、それは女川の美味しいものだと言えるのか?と。根っこがないとやっぱり成り立たないと思うんですね。女川の種を使って、手間隙かけて育て、ある程度の高い値段で売れればいい。
そこが大事なんじゃないかと。
出荷できるようになって、2シーズン目が終わったところです。
さて養殖の現場へ。ここで、カキの幼生の餌を培養しているんですね!
片倉商店では、女川で採取できるカキの種(卵)にこだわっています。女川でタネが採れるのに、女川産を使わない訳にはいかない。種からの育成に挑戦ができたのも、なまこの養殖で培った技術と経験があったからなんです。
種に、培養液を加えて育成を進めると、砂粒のような稚貝に育ちます。室内で水槽に女川湾の海水を濾過して、ふんだんに良い水を使って育てます。
種が小さな稚貝に成長したら、海で大きく育てます。栄養豊富な海面付近では、養殖カゴに海藻や他の生物が大量に付着します。そのカゴを何度も引き上げ、洗浄をする。育ったサイズごとに選別して、最適な大きさのカゴに移し替えて再び海へ。
この工程は1〜2週間ごとに繰り返します。
そして、沖でさらに牡蠣を育てるわけですね。
女川湾に出てすぐに生簀を浮かべてあります。波の少ない港では、砂粒程度の稚貝たちを水槽で育成しています。丁度指先に乗るくらいのサイズまで育てます。
ロープを引き揚げると、カゴにたくさんの海藻や水ホヤがついていますよね。見ての通り、栄養豊富な環境なんです。養殖場は、湾の外にも何箇所かあります。
シングルシードと一般的な牡蠣の違いは?
一般的な牡蠣の養殖方法は、海面から下に吊るす垂下式です。むき身がいっぱい取れればいい、という考えですね。シングルシードの場合は、殻で出荷します。水揚げしてから、殻がすぐ開いてしまうようでは駄目。
時期にもよりますが、垂下のカキは水揚げして3日、4日で口が開く。でも、シングルシードは2週間、3週間、口が開かない。だから、強い。
北米、ヨーロッパ、オセアニア辺りは牡蠣を世界中に輸出します。日本のような流通サービスがないから、とにかく強く作って日持ちを良くする。
その結果、「味も生命力のある濃い味」になるんです。
だから、生食で食べて美味い牡蠣だということですね。
海面近くが一番動く場所で、餌も多い。そういうところで、シングルシードは育成します。常にかごの中でカキが動き、成長し、上の蓋が伸びる。殻が伸ばされ、貝柱が強くなる。だから、水揚げして2週間、3週間、口が開かない。
広島や西の産地と比べると、成長は遅いです。東北は寒くて成長が遅いので、2年、3年と海の中でじっくり育てます。
1台の筏から作れる量も、垂下式の25%くらいしか作れません。
取引先の反応はどうですか?
一般の小売の人たちは、垂下のカキとシングルシードを比べます。同じ値段なら、大きいほうがいいよねとなる。
でも、飲食店の方は、食材に対する意識が高いです。料理をしたり、情報に敏感な方は、分かっているから話が早い。お店の人が、お客さんに説明してくれるので、ひろがりますね。
飲食店など卸先では「濃い」という表現をされます。あとは「食感。」全体の量に対して、貝柱が占める割合がちょっと多い。一口で、口の中に入れたときの貝柱の食感というのは結構感じられるはず。
家庭でもすぐ食べられるのも斬新ですね。殻を開けるのが大変ですからね。
ハーフシェルですから解凍して、すぐ食べられますね。
オススメの食べ方も、いくつかあります。実はタバスコとか、黒胡椒だけとか。
イギリスやアイルランドでは、シングルモルトウイスキーやジンを合わせます。ワインだけではないんですね。
シングルシードの魅力は、その小ささでもあるんです。
サイズが小さくて何個でも食べられるから、いろんな味を試せますよ。
女川こぼればなし。
取材中に思わず、「こんなに手塩にかけて育てていると、愛情が湧きませんか?」と聞いてしまった。ええ、出荷したくないくらいに、と笑いながら答えてくれた片倉さん。食べる側も心して、一粒一粒感謝していただかなければ。
2022.3.20 Text : SHINGO AOYAGI / YUKA ANNEN Photo : KEISUKE HIRAI