ONAGAWA GLAMPING、予行演習中。

女川には確実に海のイメージはある。ひょんなことから、季節ごとの山遊びがあることを知った。でも【山】と言われても、いまいちピンと来ない。春が来れば野草を見たり山菜を求めて山を歩いたり、道案内をしてくれる地元のネイチャーガイドの方もいるという。夏は沢で水遊びをしてましたよ、いまでもたまに一人で行きます、と女川で育ったビアバーのマスターが教えてくれた。え!それはどこなの、と聞くと、宿泊先から車で5分ですよ、と返ってきた。拍子抜けした。

これまでに何度も宿泊しているところから、たったの5分離れた所に森があるなんて。なんだか半信半疑だった。車を走らせると、徐々に住宅が見えなくなり、人の手が入った畑も無くなり、舗装路は砂利道になり、どんどん木が大きくなっていく。車を降りると、日常の音は消え、空気は変わり、フレッシュな緑の世界にぶわっと包まれた。うれしくて、びっくりして、大きく深呼吸。空から大きな鳥が舞い降りたり、沢をさらさら流れるせせらぎの音が聞こえたり、完全なる別世界だった。たった今車でやってきたばかりなのに、すぐそばに町があるとは到底思えなかった。それが、昨年2015年の初夏の事だった。女川の新しい一ページをめくったようなウキウキ感でいっぱいになった。

女川をあそぶ。自然とまじわる。アウトドア経験がほとんど無い私でも気軽に楽しめる、想像していたよりぐっと身近な女川アウトドア。踏み入れたことのない世界への興味はどんどん募っていった。秋には、お月見付きの山歩きとキャンピングの企画に仲間と参加表明をした。残念ながら天候に恵まれず延期となり、参加が叶わなかった。

人はフラれると、本気になる動物。やる気満々で女川アウトドアデビューのチャンスを伺っていたところ、この度NPO法人 女川ネイチャーガイド協会の藤中先生にお願いして、キャンピングの予習的な時間を持つことになった。藤中先生は、普段は学習塾で子ども達を教えているので、みんなが「先生」と呼んでいるそう。火をおこすところからやるよ、と言われ、いまさら一瞬ひるむ私。すぐにその道のプロと一緒だということを思い出して、にっこりとついていくことにした。

火をおこす、と言うと、地べたに座り込んで枝と板を一生懸命こすり合わせるイメージしか浮かんでこない。そんなやり方をするはずもなく、スギの葉っぱを少し集めて、ライターで火を点けて、スウェーデン・トーチの切れ込みに入れて待つこと十数秒。すぐに本体のスギの丸太に炎が移った。そして、たき火と言えば、その辺りから焚き木を集めてきて、キャンプファイヤーのように囲むのかと思いきや、【スウェーデン・トーチ】を使うよ、と言われた。スウェーデン・トーチ。聞いたことのない言葉。調べると、木の切り株に切り込みを入れ、そこによく燃える葉っぱや枝などを押し込み点火するらしい。

たったひとつの切り株で、キャンプファイヤー。第一印象は、なんて合理的!ということ。中心部がどんどん熱くなり、炎が大きくなってくる。さすが遠赤外線、じわじわあったかい。セッティングをしつつも、少しずつ炎との距離を縮めたくなって、じーっと見つめてしまう。魅惑の炎。自分の中の原始的な喜びが目覚める感じもある。不思議。目が離せない。

と、言いつつ、炎とくればやっぱり囲んでアウトドアご飯でしょう、ってことで、折りたたみ式のデッキチェアをセッティングし、その日の朝に仕入れてきたものを取り出す。ソーセージ、ベーコンの塊、ハーブティー。まずお湯を沸かすところから。やかんにお水を入れ、スウェーデントーチの直火に置いてみたところ、さすがに熱すぎるということで、ぶら下げることになった。すごいのはここからで、藤中先生が、さっさと大枝を拾ってきて、持っていたワイヤーでなにかを作り始めた。自然が提供してくれるその場にあるモノと、ちょっとの工夫でしっかり機能するデバイスをつくりあげる能力にドキドキした。あっという間に完成し、目の前にやかんがぶら下がっていた。すごい。すごすぎる。ネイチャースーパーマン。

なんでもかんでも買わなくてもいいんだよ、と藤中先生。アウトドア初心者の私は事前にSNSでキャンピングのグループに入って情報収集。そのグループの皆さんが揃えているギアの立派なこと。「こういう世界もあるのね」と眺めていた。自然と近づくために、人工物で重装備して都会からやってくる。却って自然から距離が遠くなる気がした。それって不自然。アンナチュラル。

もっと、肩の力を抜いて、自然の中に身をおいてみる。今なにが足りないのかということよりも、日々なにが余計なものなのかを探すということかもしれないと思った。フォークなんていらなくて、ひとりひとり小さな枝を見つけて、そのまま、ソーセージにブツリと刺した。火にかざすと、いい香りが立ち上ってくる。脂がじゅわっと滲み出し、炎の上に落ちる。ちかっ、と火が明るくなる。皮がぴんと張り、ぱちりと弾ける。お、食べごろのサイン。ちょっと煤けて香ばしくなったソーセージを口へ運ぶ。がぶり。肉汁があふれだす。はふはふ、うーんおいしいよー♡ 心の底から、うまい、の感嘆符がみんなの口から漏れる。笑顔が弾ける。その繰り返し。一秒一秒が、シンプルなシーンの連続で、愛おしく感じる時間。

そうそう、アウトドアの醍醐味はこれなのね、と見つけた。時と丁寧に向き合う、ということ。忙しさのせいで、時間の扱いがどんどん雑になってしまう。日々の喧騒から離れて、立ち止まって、振り返る。何時間もドライブしなくても、手を伸ばせば届く距離に、そんな別世界への扉が待っていてくれる。まだまだ【グランピング】という言葉とは程遠いけれど、町と森、という関係を身近に感じることができる女川。アウトドアご褒美時間の進化に、期待大。